登场者プロフィール
长谷部史彦
文学研究科 史学専攻 東洋史学分野长谷部史彦
文学研究科 史学専攻 東洋史学分野
2022/04/01
中世?近世のアラブ史、なかでもマムルーク朝期(1250-1517)とオスマン朝期(1517-1798)のエジプト社会史をもう40年近く研究しています。この时代に30~40万の人口规模だったカイロに関する论文を特に多く书いてきました。このナイル河岸の巨大都市は、20歳代后半に2年余りそこで留学生活を过ごした私にとって、かけがえのない思い出のある「都(みやこ)」です。数年前、イブン?アジャミーというオスマン朝期の州都カイロの计量士が孤独に执笔した、アラビア语の未活用史书『マバーヒジュ(喜悦)』と出会いました。その独特の世界に魅了され、唯一の自笔稿本を所蔵する図书馆があるドイツ?テューリンゲン自由州のゴータという町に足を运び、実际に手に取って精査する机会に恵まれました。またその场で、『オスマン朝の歴史』と后代に名付けられた别のアラビア语史料が『マバーヒジュ』の続篇で、同一笔跡の自笔稿本であることを确认し、惊喜しました。16世纪末~17世纪初头のエジプト州の歴史を扱うこの二つの手稿本には、高等教育を受けながらも商馆や取引所での商品计量を生业とした中间层の教养人の视座から、カイロと周辺地域の様々な出来事、彼が居住したナイルの河港ブーラークを中心とした州都の空间や人々の実态が详述されています。参诣仲间とのカイロ南郊の圣墓巡りや市内観光、父亲が経営上のトラブルから杀害された衝撃的事件、「生ける圣者」との交流、家族连れのメッカ巡礼、ナイルデルタの地中海港への出张などの个人的体験の记録に加え、食料や必需品の物価変动などの経済情报、ワクフ(寄进)制度を利用した都市开発の実状、さらには州総督とムフタスィブ(公益监督官)の市场行政への痛烈な批判なども盛り込まれており、计392叶に及ぶ二つの史书はまさに独自情报の宝库といえます。手书きの文章を解読し、多彩な记述内容を同时代の诸史料や先行研究に照らして吟味する作业は、地味ですが心跃る仕事です。谁も注目しなかった一市民の歴史家が开示してくれる浓密な小世界を、大きな歴史的展开の中に位置付け、その意味を探ってゆくことで、新たなアラブ地域史像の构筑につなげられればと思っています。
(2022/4/1)