医学部 佐藤俊朗教授
2020/04/07
人类の歴史上、流行する病気の种类はダイナミックに移り変わってきました。现代は、今や国民病となったがんだけでなく、希少疾患と言われていた溃疡性大肠炎などの炎症性肠疾患に苦しむ人が年々増加し、一日も早い治疗法の确立が望まれています。
庆应义塾大学医学部坂口光洋记念讲座(オルガノイド医学)佐藤俊朗教授らの研究チームは、根治できる治疗法がまだ见つからず、病気のメカニズムもよく知られていない溃疡性大肠炎の谜に迫る研究结果を科学雑誌狈补迟耻谤别に発表しました。佐藤教授らが世界で初めて开発したオルガノイドの培养技术により、治疗法のなかったさまざまな病気の成り立ちが解き明かされつつあります。
培养皿の上の小さな臓器(オルガノイド)で発见した溃疡性大肠炎の特徴とは?
オルガノイドとは「器官(辞谤驳补苍)」と「~に类似したもの(-辞颈诲)」の造语で、生体内の细胞で见られる立体的な3次元构造を形作るよう培养された细胞の块のことを指します。いうなれば培养皿の上に育った、生きた小さな臓器のようなものです。このオルガノイドを使うことで、病気になってから细胞を研究するのとは违い、正常な细胞が変化していくメカニズムを研究することが可能となりました。
溃疡性大肠炎は、大肠の粘膜が原因不明の炎症を起こして溃疡やただれ(びらん)が生じる疾患です。多くの场合、血の混ざった下痢や血便、腹痛などがみられ、症状は悪化したり落ち着いたりを繰り返していきます。このため长期疗养が必要とされ、厚生労働省の指定难病に认定されています。以前は珍しい病気でしたが、近年、日本の患者数は约17万人(平成25年度末の医疗受给者証および登録者証交付件数の合计)に増加しています。
佐藤教授の研究チームは、溃疡性大肠炎をオルガノイドを用いて研究した结果、炎症を起こしている大肠上皮细胞では炎症を促すインターロイキン17(滨尝-17)というサイトカイン(タンパク质の一种)に対し钝感となるような特异的な遗伝子変异が蓄积していることを、世界で初めて明らかにしました。
细胞はなぜ、どのように病気になっていくのか
「物理学者ファインマンは『私は自分に作れないものは、理解できない』と言いました。実は病気にも同じことが言えるのではないかと考えています。例えばヒトの研究では、通常、患者さんの病変から细胞を採取して観察?研究しますが、それは病気が起きた结果を见ているにすぎません。例えば溃疡性大肠炎などの炎症性肠疾患の场合、さまざまな免疫が炎症を起こし、肠の细胞が破壊されています。しかしこの荒れ果てた肠を见ても、元は正常だった肠がどのようにして荒野のような状态になったのかということは分からないわけです」
庆应义塾大学医学部を卒业し、同大学院で炎症性肠疾患を研究していた佐藤教授は、肠の再生の研究を始め、2005年に米国の厂迟辞飞别谤蝉研究所、2006年にはオランダの贬耻产谤别肠丑迟研究所に留学し、帰国后は消化器がんの研究も行ってきました。
「贬耻产谤别肠丑迟研究所ではハンス?クレバース博士が肠の干细胞をまさに発见したという论文をまとめているタイミングで、私は肠の干细胞をいかに培养するかを研究し、培养に必要な3つの因子の特定に成功しました。こうして开発された干细胞培养技术はやがて、ヒトの他の多くの臓器や种を超えても応用できるものであることが分かったのです」
これまで、遗伝子の研究は主にマウスを使った动物研究に依存してきましたが、动物研究を缩小し、オルガノイド研究に轴足を置く动きが世界的に広まり、今ではオルガノイド関连の研究会が世界各地で数多く行われるようになりました。この动きは动物爱护の観点からも、社会に広く歓迎されています。
がん细胞を作ってみる
现在、佐藤教授は大肠上皮细胞のオルガノイドを培养し、正常细胞が溃疡性大肠炎や大肠がんになっていくメカニズムを研究しています。
「まさにオルガノイドを使って、がんや潰瘍性大腸炎を『作って』みています。通常、例えばがんや炎症がある場合には、すべて目による観察でさまざまな病名に分類し、遺伝子を解析して研究してきたわけですが、オルガノイドを用いることで、正常な細胞が生き物としてどのように変化するのかを観察することができるようになりました。私たちは正常な大腸上皮細胞がどのように病気になっていくのかというプロセスを検証しているわけです。 これまでに、正常な大腸上皮細胞は、非常に良質かつ豊富な種類の『細胞の餌(増殖因子など)』が与えられないと育たないばかりか、生育エリアも基底膜の上という決まった場所のみに限られることが分かっています。 一方、大腸がんの上皮細胞は、種類が少なくごくわずかな『餌』でも、本来腸の上皮細胞が育つ条件にはない腸の深部や筋肉、さらには他の臓器でも育つ雑草のような特徴を持っています。生きていくのに必要な『餌』が徐々に減っていき、か弱い正常な細胞が、何もなくても生きられるがん細胞に変化していった可能性が考えられました」
さらに、细胞をがん化させる新たな要因の存在も浮かび上がってきました。
「たとえばがん细胞を正常细胞から作ってみると、従来言われていたことだけではがんが成立しないことが明确になりました。がん细胞に特异的なことで知られる遗伝子変异を正常な大肠上皮细胞に4つ、5つと入れていくと、実际、饵が少なくても育つ雑草のような细胞にはなります。しかしそれだけでは、浸润や転移という特徴を持つ正真正铭のがん细胞にはなりませんでした。作ってみて初めて、似ているけれども足りない部分が分かってきたわけです。今はもう一回立ち戻ってさらに必要な因子を検讨し、最终的に本物のがん细胞にどんどん近づけていくというステップを続けています」
细胞の生みの亲-干细胞のゲノム年齢
オルガノイドを使った研究により、干细胞の加齢现象も见えるようになりました。私たちの体では细胞が絶えず生まれては死に、新しい细胞に置き换えられています。この新しい细胞を生み出しているのが、干细胞です。复数の干细胞からクローンが生まれているため、ある一つの干细胞から生まれたクローンだけを研究することは以前はできませんでした。しかし佐藤教授らが开発した肠管上皮干细胞のオルガノイド培养技术では、1个の干细胞から多数のクローンを増殖させることができます。こうして佐藤教授は干细胞1个あたりでどの程度の遗伝子変异が生じていくのかについて、ゲノムシーケンスを用いて调べた研究も报告しています。
「幹細胞は分裂を繰り返し、そのたびに遺伝子が複製されます。しかし腸の幹細胞は何億個もあり、それが毎日分裂するたびに遺伝子の複製ミス、すなわち遺伝子変異が少しずつ積み重なっていきます。私たちの研究から、ヒトの体内では、大体毎週1個、1年に約40個の遺伝子変異が生じることが明らかになりました。これは誰にでも起こり、避けることはできません。 変異の数を数えれば、いわゆる細胞の『ゲノム年齢』が分かります。私たちの体のほとんどの細胞は経年的に変異が蓄積するため、年齢に応じて変異の数が増えていきます。例えば、大腸幹細胞は40歳であればおよそ3,000個の変異が入っていることがわかっています。従って、大腸幹細胞の変異数が3,000個であった場合、実年齢に関わらず、腸のゲノム年齢は40歳と推定することができるのです」
次に佐藤教授は、ゲノム年齢に影响を与える因子を探す手始めとして、溃疡性大肠炎の炎症がゲノム年齢に与える影响を検讨しました。それが今回、溃疡性大肠炎の知られざる遗伝子変异の発见につながることになりました。
「病気というのは明確な境界があるわけではなく、徐々に徐々に進行していきます。これはそのごく初期の目に見えない部分の変化に焦点を当てた研究です。 潰瘍性大腸炎では、炎症が左右の片側だけに広がっている症例があります。今回、私たちは、こういった同一の患者さんの正常上皮細胞と炎症部分の上皮細胞について、オルガノイドを使い遺伝子変異を比較しました。 その結果、炎症部分では確かに正常上皮細胞に比べて遺伝子変異は多かったのですが、数としては予想していたほどの差ではありませんでした。しかし、その変異の種類を調べてみると、潰瘍性大腸炎の炎症細胞には、今まで知られていなかった特徴的な遺伝子変異が起きていることが明らかになりました」
炎症环境への适応现象?
细胞はサイトカインというタンパク质を分泌して、他の细胞にさまざまな信号(シグナル)を送り、コミュニケーションしています。溃疡性大肠炎では炎症が広がっていきますが、このときには炎症を促すように働く炎症性サイトカインがたくさん分泌されています。
佐藤教授によれば、このような炎症性サイトカインが多い状态は、正常な大肠上皮细胞にとっては元来非常に住みにくい环境であるそうです。
「正常な大肠の上皮细胞は、通常は炎症性サイトカインにさらされていなく、逆にさらされれば死んでしまいます。しかし溃疡性大肠炎の炎症部分にある上皮细胞では、『炎症を促进しろ!』というメッセージを出す炎症性サイトカインの一种であるインターロイキン17(滨尝-17)だけに反応しないような遗伝子変异が积み重なっていることが分かりました。私たちの干细胞には年齢とともに遗伝子変异が积み重なっていきますが、通常、その変异はあくまでランダムなもので、バラエティーに富んでいます。しかし溃疡性大肠炎の肠を见てみると、特定の遗伝子が変异した细胞だらけだったのです。このことから、溃疡性大肠炎になると、炎症环境に弱い正常细胞が减少していき、炎症に耐えられるよう変异した细胞が増えていく―上皮细胞が徐々に滨尝-17をブロックする遗伝子変异を持った细胞に涂り替えられていくという可能性が考えられました」
しかし、この変异の蓄积は直接がん化に结びつくものではないそうです。
「私たちのような研究医にとって、医学研究の醍醐味は、病気がなぜ、どのように起こっているのかを解明することにあります。大肠の上皮细胞自体は炎症性シグナルに强くなっていっても、そうした炎症性シグナルに反応しないままシグナルが飞び交う环境が长年続くと、肠全体の炎症は悪化してしまうのかもしれません。今后さらなる研究を続け、いずれ全容が明らかにできればと思います」
溃疡性大肠炎は大肠がんに进行しやすいことが知られていますが、今回発见された遗伝子変异の蓄积は、肠全体の炎症にとって良い影响をもたらすのでしょうか。それとも、悪影响となるのでしょうか。また、ここからどのようにしてがんへの変化が生じるのでしょう。佐藤教授のオルガノイド技术が可能とした新しい発见は、次々とさらなる新しい问いへとつながり、疾患の成り立ちに迫る研究を世界中で生み出しています。これまで全く原因の分からなかった难病研究に、いま新しいドアが开かれ始めています。
佐藤 俊朗(さとう としろう)
1997年慶應義塾大学医学部卒業。2004年慶應義塾大学大学院医学研究科 博士。2005年よりStowers研究所(米国)博士研究員、2006年よりHubrecht研究所(オランダ)博士研究員。2013年慶應義塾大学医学部内科学(消化器)特任准教授。2016年慶應義塾大学医学部 内科学(消化器)准教授。2018年より慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)教授。
この记事は、庆应义塾大学医学部?医学研究科サイトに掲载したものです。
※所属?职名等は取材时のものです。